自社の販売網との相乗効果を期待して、保険代理店の買収を検討する上野社長。
この記事では、買収コストを左右する人事労務デューデリジェンスで
チェックしたいポイントを事例と併せてご紹介します。
人事労務デューデリジェンス自体は、社会保険労務士等の社外の専門家に依頼して実施してもらうがほとんどでしょうが、それが適切に実施されるためにも総務部等、社内の関係者も全体像とポイントを押さえておく必要があります。
今日は買収コストを左右する人事労務デューデリジェンスについて、初めて行う会社が確認したいチェックポイントを解説していきます。
1.初めに、人事労務デューデリジェンスとは?
新聞紙上やメディア等では、大手企業のM&A(買収・合併)のニュースが賑やかですが、最近では、中小企業間においても、経営戦略や後継者対策として注目されるだけでなく、実際に数多く行われています。
M&Aや事業承継を検討するときに、事前に企業リスク及び企業価値を調査することをデューデリジェンスといいますが、人事労務の調査については、人事労務デューデリジェンスといいます。
特に中小企業では、未払い残業代や未払い労働保険・社会保険料、退職給付債務などの労働債務や労基法違反にかかわる法的リスク、問題社員の存在など、労使間の様々なトラブルが隠れている可能性が少なくありません。
M&A後に問題がわかったということでは、「人」の問題は簡単には解決しませんので、大変な苦労を背負い込むことにもなります。事前調査の段階で、こうしたリスクを軽減または把握しておきたいという買収側のニーズは極めて大きいです。
したがって、人事デューデリジェンスの結果いかんでは、買収金額の見直しが必要になったり、買収そのものを思いとどまったりすることにもなり、企業評価を行う上で、その重要性はますます高まっています。
2.人事労務デューデリジェンスのチェックポイント
実際に人事労務デューデリジェンスをおこなう際は、以下のような項目をチェックします。
・従業員構成と組織図
・雇用形態
・労働条件
・労働時間
・労働トラブル
・労働基準監督署
・労災
労働関連法令は多数あり、チェック項目も多岐にわたります。上記はあくまでも一例であり、すべてを網羅しているわけではありません。
厳格に実施するには高度な専門的知識を要する点は知っておくべきでしょう。
では1つずつ解説していきます。
(1)従業員構成と組織図
労働者名簿や組織図などにより、従業員数や各部門の人数を確認するとともに、
従業員の平均在職年数の長短や人事配置が適正かどうかをチェックします。
(2)雇用形態
正社員以外に、契約社員、派遣・業務請負など、どのような雇用形態の従業員を
どの程度雇用しているか確認します。契約社員であれば、労働条件通知書の作成および
その内容や、派遣・業務請負であればその指揮命令がどこにあるかをチェックします。
(3)労働条件
「就業規則」の内容が労働基準法に違反していないかどうか、従業員のへの周知は適切かどうか、過去に労働条件の不利益変更をしていないかどうかをチェックします。
「給与規程」の内容と実際の給与支払いに齟齬がないかどうか、時間外手当を適切に支払いサービス残業をさせていないかどうか、その計算方法は適切か、管理監督者の運用は間違っていないか、未払い賃金の存在がないかを厳しくチェックします。
「退職金規程・年金規程」と実際の運用方法について確認し、退職給付債務とその積立不足をチェックします。未払い賃金や退職金の積立不足は予想外の簿外債務を形成している可能性があるので、最も注意すべき点です。
(4)労働時間
労働時間の管理の方法が、タイムカード、ICカード等の客観的な記録媒体を使用して
いるのか、自己申告制をとっているのかを確認するとともに、時間外労働があれば
「36協定」が毎年提出されているか、変形労働時間制を導入していれば適法な手続き
をとっているか、有給休暇の付与と消化が適切かどうかをチェックします。
(5)労働トラブル
現時点の労使トラブルの存在と過去5年以内の解雇事例、懲戒事例、不祥事事例について 確認するとともに、訴訟の可能性や問題社員の把握、労働組合があればその関係についてチェックします。
(6)労働基準監督署
労基署から交付された「是正勧告書」の頻度と内容、会社が提出した「是正報告書」
の内容をチェックします。
(7)労災
過去の労災事故の内容及び件数、事故後の処理結果をチェックします。
3.人員整理のポイント(優秀な人材の引き留めを含む)
人事労務デューデリジェンスの際に、売り手側の全ての従業員を受け入れる場合は問題ないですが、受け入れができない従業員がいる場合は、事前に売り手側により人員整理をしてもらうことが必要となり、退職金等一定のコストを見込むことにもなります。
人員整理の具体的な方法としては、まず、整理後の人員配置を検討し、どの事業部門あるいはどの職種を何人ずつ減らすのかという計画を立てることが必要です。
そのうえで、まずは、派遣社員、有期雇用のパート社員、契約社員を優先して人員削減していくことになります。さらに、正社員の雇用に手を付ける必要があるときは、正社員について希望退職者の募集あるいは退職勧奨により、できるかぎり合意による退職を促すことになります。
そして、希望退職者の募集や退職勧奨を行っても、必要な人員整理の人数に達しないときは最終の手段として、整理解雇を進めることになります。
人事労務デューデリジェンス際の整理解雇は会社にとってリスクが高く、不当解雇であるなどとして訴えられ訴訟になるケースも多いため、できる限り、希望退職者の募集あるいは退職勧奨で必要な人員整理を終えることを目指す必要があります。
また、反対に、有能な従業員が退職してしまうことを防止するためには、将来の報酬やポストを厚遇することが必要です。人事労務デューデリジェンスに伴う労働条件の変化で、従業員のモチベーションが下がってしまえば、M&Aの意義が薄れてしまいます。
優秀な人材に自社で最大限の能力を発揮してもらうためにも、『一定期間は同じ労働条件』にするのが一般的です。労働条件に保証期間を設け、時間をかけて買い手企業の就業規則や人事制度に合わせていく方が負担は少ないでしょう。
また、M&Aの最終契約書において、売り手が『従業員の待遇は従来通りにすること』『待遇の改善をすること』といった条件を提示する場合もあります。
まとめ
M&Aや事業承継を検討する際に、事前に企業リスクや企業価値を調査することをデューデリジェンスといいますが、人事労務の調査を人事労務デューデリジェンスといいます。
中小企業では、未払い残業代や未払い労働保険・社会保険料、退職給付債務などの労働債務や労基法違反にかかわる法的リスク、問題社員の存在など、労使間の様々なトラブルが隠れている可能性が少なくありません。
M&AやIPOなどは会社にとって一大イベントであり、絶対に失敗はできません。専門家の知識と経験を活用しながら、成功に結び付けたいものです。
人事労務デューデリジェンスについて、弁護士保険付き就業規則「パトローラー」には「こんなサポートがあります!
(1)企業の人員整理に関するご相談
弁護士保険付き就業規則「パトローラー」では、企業の経営者、担当者から、企業の人員削減に関するご相談を承っています。
人員削減は対応を誤ると法的な紛争に発展する会社としてもリスクの高い場面です。
必ず事前に社労士にご相談いただき、具体的な進め方や手順に問題がないかをご確認いただきますようにお願いいたします。
(2)労務トラブルの際に弁護士にも無料相談をすることができる
万が一トラブルが起きてしまった場合は、弁護士に無料で相談することができます(30分間)また、弁護士への委任する場合に生じる、着手金や手数料を保険によって30万円まで補償することができます。
人事労務デューデリジェンスについて検討中の方は、自己流の対応をする前に、弁護士保険付き就業規則パトローラーにご相談ください。
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